いっぺんに2本抜いてはいけない?
抜いたあと痛い、腫れるのが当たり前?
親知らず抜歯の疑問に、お答えします。
ワタナベ歯科医院 院長 渡部譲治

親知らずの抜歯にひそむ
「神経損傷」という危険性

親知らずのまわり(とくに下顎)には、いくつかの大事な神経が通っています。抜歯の際、神経を損傷すると、知覚異常(麻酔が残ったようなしびれ)や麻痺が出ることがあります。解剖学的位置関係からいうと、通常の奥歯より親知らずの方が神経に近く、リスクは高いといえるでしょう。ただでさえ見えにくい奥歯、そのさらに奥にある親知らずの抜歯には、専用の機材と外科的技術が求められます。

親知らずで相談に来られる患者さんは、20代から30代を中心に、中高年の方まで幅広くいらっしゃいます。年間通じて抜く本数は、かなり多いですし、手がける症例が多いので治療に関するノウハウもそれに応じて蓄積されています。総合病院や大学病院で、抜歯の予約が1ヵ月、2ヵ月先、しかも土日は抜歯ができないと聞いて相談に来られる方もいますし、ほかの歯医者さんから紹介されて来る患者さんもいらっしゃいます。

親知らずを2本同時に抜いてはいけないという俗説、じつは医学的根拠があるわけではない

炎症が特別ひどくなければ、来院いただいた当日に抜歯可能です。炎症がひどい場合は、抗生剤である程度消炎してから抜いたほうが腫れや痛みを少なくすることができますが、このあたりはケース次第です。また「親知らずは2本いっぺんに抜いてはいけない」という話を聞きますが、2本同時の抜歯は可能です。いけないという俗説に根拠があるとは思えません。

むしろ同じ側、上下の親知らずを同時に2本抜歯した方が、その後の経過も楽になります。1本だけ抜くと、抜いたところが少し腫れただけで、噛み合わせ反対側の親知らずが歯肉に噛み込んでしまい、痛みを引き起こすことがよくあります。街の歯医者さんが「ワタナベ歯科医院で抜いてもらってください」と紹介状を書いてくださるのも、こうした技術、ノウハウの違いが理由のひとつになっているのではないでしょうか。

抜歯前には3D-CTを使った
診断が必要不可欠です

当院で親知らずを抜歯する前には、まず最初に親知らずとそのまわりを通っている神経の位置関係をパノラマレントゲンで確認、親知らずと神経が重なって写っているなど、リスクのある親知らずの場合には、さらに3D-CTで撮影をおこないます。もちろん三次元画像で確認したといっても、術野(※手術時に目視で確認できる範囲のこと)から神経そのものが見えるわけではありません。しかし、事前に位置の確認ができていれば、この角度で深さ何㎜までは大丈夫、という判断ができます。これは大きな違いです。

インプラントでも、3D-CTで神経の通っている位置をコンマ数㎜単位で計測してから手術を行います。理由は親知らずと同じで、神経損傷による麻痺のリスクを徹底的に排除するためです。インプラント治療に使うドリルには細かい目盛りがついていて、先端から何㎜までドリルが入ったか、見てわかるようになっています。この目盛りとスキャンデータを参考にしつつ、神経までの距離、角度をつねに意識しながら治療を進めていくわけです。

インプラント治療に使われるドリル。スキャンデータと先端部分の目盛りを参考にしながら治療をおこなう

3D-CT設備のある歯科医院であれば、危険性があるとわかっていれば、かならず親知らずと神経の位置関係を確認すると思います。そう考えると「3D-CTがあるかどうか」は、親知らずの抜歯で歯医者さんを選ぶときの、ひとつの目安になるでしょう。